困難に直面した時、或いはもっと難しい局面と対峙した時、外科医幕内雅敏は基本に返るという。
その基本とは「あせらず、あくまで冷静に、そして確実に・・」であるという。
また「決してギャンブルはしない」とも言う。
彼の元を尋ねる患者は末期的ナがん患者が多い。ほとんどが余命6ヶ月以下を宣告されている。
しかし彼は言う「私を最後の砦と考える患者には、最善を尽くしたい」と・・。
最善を尽くすには、2つの条件があるという。
患者自身が、生きることをあきらめていないことを前提として、癌細胞がほかの臓器に転移していないことなのだそうだ。
特に肝臓癌については年間200を超える手術をこなしている。
1年365日、休む日にちなどない。
ボクも今回は肝臓に膿瘍を抱えていた。
音も無く、沈黙したまま、肝臓は膿に犯されていたのだった。
どんな仕事をしていても基本は大事だと彼は言う。
基本・・それをクライミングの場合に置き換えてみる。
教わる側の心理、教える側の思い込みなど一切を排除して、基本を考える。
基本とは毎日毎日同じことの繰り返しである。
幕内は毎日、血管に糸を巻き止血する練習を欠かさないという。
30秒間に40回も止血(糸を巻く)の練習をする。
この最も単純な技術こそ、最も高度な技術なのだそうだ。
もう一度、クライミングにそのことを置き換えてみる。
最も単純なことこそ、最も高度なクライミングの技術に繋がる。
「単純であるがために、多くの医者は、この単純なことを繰り返さない・・それでは高度な技術は身につかない」と言い切る
それは32歳の時の失敗に起因している。
13歳の肝臓癌の子供を、単純な思い違いで血管の縫合に失敗した経験に根ざしている。
あると思わなかったところに血管があり、血が噴出して指が止まってしまったのだ。
自分の持つ、高度な最先端技術にうぬぼれがあったのかもしれないと幕内は言いった。
また「あの失敗が無かったら、今日のボクは無かったかもしれない」という。
失敗を恐れてギャンブルに踏み切る。
基本を忘れて、高度な技術としてのムーブ選択に走る。
では何がクライミングの基本なのだろうか?
もう一度基本を考えてみる
イチローも松井も何時も基本を考えるという。
それは、一見つまらないことの繰り返しの中にある・・という
練習にギャンブルは不要である。
「あせたず、冷静に・・しかも確実に」基本は日常の練習の中に多くの要素を隠し持っている。
新しいことの発見は、もっと単純な練習から勝ち取れ、体の内側から沸いてくるものなのかもしれない。

